交通事故の損害賠償請求事件における調停や訴訟では何が行われるのか
交通事故に遭った場合、被害者は加害者に対し損害賠償を請求しますが、双方の話合いにより、納得した内容で示談に至れば、その解決が望ましいことはいうまでもありません。
しかし、被害者と加害者(保険会社などを含みます)の話合いがまとまらず、示談が成立するに至らなかった場合、被害者は法的手続をとることになります。
交通事故の損害賠償を請求する場合、その法的手続としては「調停」と「訴訟」があります。
では、交通事故の損害賠償請求事件における調停や訴訟では何が行われるのでしょうか。
調停では事案に即した解決が図られ、訴訟では和解のほか、原告の請求の全部又は一部が認められる、又は認められないとの判決が言い渡されます。
以下においては、調停と訴訟について、順次、説明することとします。
なお、特段の表記がなければ、「調停」の項における条文は民事調停法の条文を、「訴訟」の項における条文は民事訴訟法の条文を意味します。
調停
交通事件の調停については、相手方の住所地等を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所又は簡易裁判所に管轄があるほか、自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償の紛争に関する調停事件は、損害賠償を請求する者の住所又は居所の所在地を管轄する簡易裁判所にも申し立てることができます(3条1項、33条の2)。
簡易裁判所における交通調停は、裁判官と民間から選出された2名の調停委員の3名で構成される調停委員会が、当事者双方の主張を交互に聴き、事案に即した解決を図るものです。
費用は、訴訟と比べて低廉であり、訴訟物以外の事柄についても解決を図ることができるという柔軟性があります。調停が成立し、その合意の内容が調停調書に記載されれば、調停調書は裁判上の和解と同一の効力を有します(16条)。
また、調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平を考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、金銭の支払等の財産上の給付を命ずる決定をすることができます(17条)。
ただし、この決定については、当事者が決定の告知を受けた日から2週間以内であれば、異議の申立てをすることができ、適法な申立てがあったときは、上記決定は効力を失います(18条1項4項)。
他方、当事者間で合意ができない場合は、調停不成立となります。そうした場合、解決を図るためには訴訟を提起せざるを得ないこととなります。調停である程度話合いが進んでいますと、訴訟になっても相手方の主張が予測でき、訴訟がスムーズに進むこともあります。
訴訟
管轄
通常は、被害者、加害者、運行供用者などの住所、居所の管轄裁判所、あるいは事故発生地の管轄裁判所です。
当事者
原告
交通事故で被害を受けた被害者本人、死亡した被害者の相続人などが原告です。
被告
通常は、加害車両の運転者(民法709条)又は運行供用者(自賠法3条)、運転者の使用者(民法715条)が被告とされます。
訴えの提起
訴えの提起は、訴状を裁判所に提出して行います(133条1項)。また、訴状には、立証を要する事由について証拠となるべき文書の写しで重要なものを添付します(民訴規則55条2項)。
裁判長は、訴状審査を行い、第1回口頭弁論期日を指定します(139条)。通常、被告に対し、訴状と第1回口頭弁論期日の呼出状が送達され、訴訟係属という状態になります。
訴状における請求の特定
訴状には、請求の趣旨及び原因を記載する(133条2項)ほか、請求を理由づける事実を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければなりません(民訴規則53条1項)。
請求の趣旨
請求の趣旨としては、交通事故における損害賠償の支払を求め、併せて、これに対する遅延損害金の支払を求めるのが通常です。
請求の原因
【交通事故の特定】
請求の原因としては、①交通事故の発生日時、➁発生場所、➂原告車両と被告車両の種類、車両番号等(事故に遭った両車両の特定)、④事故の態様等で、交通事故を特定します。
【責任原因】
責任原因は、被告ごとに、民法709条の不法行為責任なのか、自賠法3条の運行供用者責任なのか、民法715条の使用者責任なのかが明確に分かるように記載します。
【傷害の内容及び治療の経過】
当該交通事故によって負った傷害の内容、治療の経過(入通院先、入通院期間、実通院日数)を記載します。後遺障害の場合、これらに加え、症状固定日及び後遺障害の程度(後遺障害等級認定がある場合には、その等級)を記載します。
【損害】
損害は、治療関係費、休業損害、逸失利益(後遺障害のある場合、死亡事案が中心となります)、慰謝料などの個別の項目ごとに計算され、その合計額が損害とされます。原告は、これらの損害について具体的な額を記載します。
答弁書の提出
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答弁書には、請求の趣旨に対する答弁を記載するほか、訴状に記載された事実に対する認否及び抗弁事実を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由(争点)ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの(重要な間接事実)及び証拠を記載します(民訴規則80条1項)。
第1回口頭弁論期日
原・被告本人又はその訴訟代理人が法廷に出頭した上、事前に裁判所に提出した準備書面(訴状、答弁書等)に基づいて主張を述べ、主張を裏付けるために証拠(事故態様等や損害を立証するもの)を提出します。
証拠調べの口頭弁論
当事者間の争点が明らかになれば、その争点について判断するために、裁判所は書証の取調べ、証人尋問、当事者尋問等の証拠調べの手続を行います。
和解勧試
裁判所は、訴訟のいつの段階でも和解を試みることができます(89条)。当事者がこれに応じて裁判上の和解が成立し、合意の内容が和解調書に記載されれば、和解調書は確定判決と同一の効力を有します(267条)。
判決言渡し
裁判所は、証拠調べを行った後、原告の請求の全部又は一部が認められる、又は認められないとの心証を得たときは、口頭弁論を終結して判決を言い渡します(243条1項)。判決は、言渡しによってその効力を生じます(250条)。
まとめ
交通事故の損害賠償に関しては、当事者(保険会社を含みます)間で示談交渉がまとまらなければ、調停や訴訟といった裁判所の手続で解決することになります。調停も訴訟も、被害者本人が起こすことも可能です。
しかし、交通事故の損害賠償を巡る問題は、法律知識だけでなく、交通事故特有の専門的な知識も必要となりますので、弁護士のサポートなしには、納得できる損害賠償額を得ることは難しいのです。裁判所の手続をとらざるを得なくなった方は、是非当事務所にご相談ください。