給与所得者の休業損害はどうやって算定されるのか

代表弁護士 津田 岳宏 (つだ たかひろ)

交通事故に遭い、入院や通院を余儀なくされ、給与所得者が仕事を休まざるを得なくなった場合、休業損害が発生します。給与所得者は、労働契約等に基づいて労務を提供することによって収入を得ている者です。

では、給与所得者の休業損害はどうやって算定されるのでしょうか。

休業損害は、算定基準によって違いがありますが、裁判(弁護士)基準の場合、原則として、1日当たりの基礎収入(事故直前3か月の平均収入)に、休業期間を乗ずることで算定されます。

以下においては、休業損害、損害賠償額算定の基準と休業損害の算定方法、給与所得者の基礎収入、基礎収入の立証方法、休業期間などを概観しながら、裁判(弁護士)基準に従い、給与所得者の休業損害はどうやって算定されるのかについて、説明することとします。

なお、自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した事故については、新基準が適用されます(下記の支払基準は新基準によっています)。

休業損害

休業損害とは、被害者が交通事故による受傷のために休業し、又は十分に就労できなかったために、傷害の治癒ないし症状固定までの間に、得ることができたはずの収入ないし利益を得られなかったことによる損害をいいます。

損害賠償額算定の基準と休業損害の算定方法

交通事故による損害賠償額算定の基準としては、①自賠責基準、➁任意保険基準、➂裁判(弁護士)基準の3つがあります。

自賠責基準

自賠責基準は、自賠法に基づく自賠責保険の支払基準であり、強制加入とされており、最低限の保障をするものであって、当然、額は最も低くなっています。

自賠責基準では、休業による何らかの減収があったという事実さえ認められれば、それが少額であった場合も含め、日額6100円が認められます。減収の日額が6100円を上回ることが証明されれば、最高で日額1万9000円まで認められます(自賠法施行令3条の2)。

任意保険基準

任意保険基準は、任意保険会社が独自に設けている基準で、額は自賠責基準と裁判(弁護士)基準の中間にあります。

裁判(弁護士)基準

裁判(弁護士)基準は、訴訟になった場合に見込むことができる賠償額の基準で、最も高額になります。

休業損害は、原則として、「1日当たりの基礎収入(事故直前3か月の平均収入)×休業期間」で算定されます。

給与所得者の基礎収入

給与所得者については、受傷のための休業により現実に喪失した収入額が損害として認められます。

すなわち、事故前の実際の給与額を基礎収入として、具体的に算定されます。この給与額には、本給のほか住宅手当、超過勤務手当等の付加給も含まれます。

実務的には、この基礎収入について、事故直前3か月の平均収入(税金や社会保険料が控除される前の額)を用いることが多いとされます。休業損害は、将来の逸失利益と異なり、短期間に限られることが多いからです。

しかし、月ごとに大きな変動があるなど不確定要素の強い職種については、より長期間の平均収入を用いることもあります。賞与や歩合給の高い職種や繁忙期が限定される職種等では、より長期間の平均収入を用いるという考慮が必要となりましょう。

継続的な完全休業の場合

継続的な完全休業の場合には、休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、これに休日を含む休業期間を乗じる算定方法が用いられることが多いとされます。

就労しながらの断続的な休業の場合

就労しながらの断続的な休業の場合には、休日を含まない実労働日1日当たりの平均額を基礎収入とし、これに実際の休業日数を乗じる算定方法が用いられることが多いとされます

有給休暇使用の場合

現実の収入減がなくても、休業期間中に有給休暇を使用した場合に、その期間について損害として認められるかについては、争いがないわけではありませんが、裁判(弁護士)基準は、休業損害として認めています。

有給休暇を使用することによって、減収は生じていないものの、本来他に利用できた有給休暇を、事故のために休業期間中に使用しなければならなかったのであり、失った余暇等のための時間は財産的価値を有すると考えられるからです。

休業中の昇給、昇格の場合

休業中に昇給、昇格があった場合には、その金額を基礎として休業損害を算定します。

休業による賞与の不支給、減額の場合

休業により支給されなかったり減額された賞与についても、休業損害として認められます。

休業による昇給、昇格遅延の場合

休業による昇給、昇格の遅延についても、休業損害として認められます。

事故による退職の場合

事故により退職し無職状態となったものの、現実に就労することが困難な場合には、就労ができない期間は、休業期間に準ずるものとして、休業損害を認められます。

基礎収入の立証方法

給与所得者の場合、給与額と休業期間を立証することになります。給与額を証明する源泉徴収票(勤務先が発行)や月々の給与明細書(勤務先が発行)、休業したことを証明する休業損害証明書(勤務先が発行。保険会社が書式を持っています)等が用いられるのが通常です。

休業に伴い賞与が減額されたり、支給されなかった場合の立証は、賞与減額証明書(勤務先が発行)により、昇給、昇格の遅延の立証は、社内規程や上司の陳述書等によります。

なお、事故による退職後、就労することが困難であることについては、そのことの立証が必要になります。

休業期間

賠償の対象となる休業期間は、原則として、事故による傷害が治癒し又は症状が固定した時期までの間に、現実に休業した期間です。被害者の実休業日数が一応の基準となります。

ただし、症状の内容・程度、治療経過等からして就労可能であったと認められる場合は、現実に休業していても賠償の対象とならなかったり、一定割合に制限されることがあります。

休業の必要性ないしその程度の立証は、診断書によるのが通常ですが、さらに、カルテ、画像、医師の意見書、裁判上の鑑定等による立証が必要となる場合もあります。

まとめ

交通事故に遭い、給与所得者が仕事を休まざるを得なくなったような場合、休業損害を巡って争いが生じたりします。

給与所得者の休業損害は、裁判(弁護士)基準の場合、原則として、1日当たりの基礎収入(事故直前3か月の平均収入)に、休業期間を乗ずることで算定されます。

しかし、基礎収入の算定根拠については、職種によっては立証に困難を伴うことも予想されます。

交通事故に遭い、休業損害の請求をお考えの給与所得者の方は、是非当事務所にご相談ください。

代表弁護士 津田岳宏(つだたかひろ)/昭和54年生/京都女子大学付属小学校卒業/東大寺学園中・高等学校卒業/京都大学経済学部卒業/平成19年9月弁護士登録/平成26年6月京都グリーン法律事務所を設立

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