交通事故で目・耳・鼻・口に障害が出た場合の後遺障害と等級認定
後遺障害の認定基準において、顔周辺は、目(眼球、まぶた)、耳(内耳、耳介)、鼻、口(そしゃく及び言語の機能障害、歯)に分けられています。
これらは人間の身体の動きにとって極めて重要です。細かなパーツに不具合が生じても日常生活に支障が生じることから、後遺障害の認定基準は非常に細かく規定されています。
今回は、目・耳・鼻・口の後遺障害について詳しくご説明します。
目の後遺障害(視力や眼球運動)
目の後遺障害は、眼球とまぶたに分けられています。
眼球の障害には、①視力障害、②調節機能障害、③運動障害、④視野障害があり、まぶたの障害には、①欠損障害、②運動障害があります。
眼球の視力障害は、両眼が失明すると第1級1号、1眼が失明し他眼の視力が0.02以下になると第2級1号、両眼の視力が0.02以下になると第2級2号、1眼が失明し他眼の視力が0.06以下になると第3級1号、両眼の視力が0.06以下になると第4級1号、1眼が失明し他眼の視力が0.1以下になると第5級1号、両眼の視力が0.1以下になると第6級1号、1眼が失明し他眼の視力が0.6以下になると第7級1号、1眼が失明するか1眼の視力が0.02以下になると第8級1号、両眼の視力が0.6以下になると第9級1号、1眼の視力が0.06以下になると第9級2号、1眼の視力が0.1以下になると第10級1号、1眼の視力が0.6以下になると第13級1号となります。
視力
ここで「視力」とは矯正視力をいい、コンタクトレンズの使用が医学的に可能(1日に8時間以上の連続使用が可能)であれば、コンタクトレンズを使用して計測します。
また、1眼の視力が0.5、他眼の視力が0.02のときは、両眼の視力を基準とすると第9級1号、片眼(重いほう)の視力を基準にすると第8級1号に該当するところ、重いほうの第8級1号が後遺障害として認定されます。
眼球の調節機能障害は、両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すと第11級1号、1眼の眼球に著しい調節機能障害を残すと第12級1号となります。
ここで「眼球に著しい調節機能障害を残す」とは、調整力が通常の2分の1以下に減少することをいいます。調整力が通常の2分の1以下かどうかは、原則として、健康な側の眼の調整機能と比較して算定します。
ただし、両眼に異常が認められるときは年齢別の調整力一覧表に記載された数値と比較して算定しますが、調整力は年齢とともに衰えることから、治癒時の年齢が55歳以上のときは年齢別一覧表は用いず、障害認定はなされません。
眼球の運動障害は、正面視で複視を残すものは第10級2号、両眼の眼球に著しい運動障害を残すものは第11級1号、1眼の眼球に著しい運動障害を残すものは第12級1号、正面視以外で複視を残すものは第13級2号となります。
複視
ここで「複視」とは、右眼と左眼の網膜の対応点に外界の像が結像せずにずれているために物が二重に見える状態のことです。複視を残す場合には、多くのケースで頭痛等の神経症状が同時に出ることがありますが、この頭痛等は複視と独立して障害認定する程度のものではないとされています。
また、複視の原因である眼筋の麻痺等は眼球の著しい運動障害の原因ともなりますので、眼筋の麻痺等を理由とする眼球の著しい運動障害が認められるときは、通常、複視を残すことになります。
また、「眼球に著しい運動障害を残す」とは、眼球の注視野の広さが2分の1以下に減少することをいいます。ここで「注視野」とは、頭部を固定させ、眼球運動だけで直視することができる範囲のことをいいます。左右の眼球は、それぞれ3対(6つ)の外眼筋で支えられています。
この6つの外眼筋の1か所ないし複数個所が麻痺すると、眼球は麻痺した外眼筋の反対方向に移動し(麻痺性斜視)、その分だけ眼球運動が制限されることになります。
眼球の視野障害は、両眼に半盲症・視野狭窄・視野変状(暗点と視野欠損)のいずれかを残すと第9級3号、1眼に半盲症・視野狭窄・視野変状のいずれかを残すと第13級3号となります。ここで「視野」とは、眼前の1点を見つめたときに同時に見える外界の広さのことをいいます。
同一の頑強に異なる障害がある場合
なお、同一の眼球に系統が異なる2以上の障害があるとき、例えば、両眼の視力が0.6以下となり(第9級1号)、1眼の眼球に著しい調整機能障害(第12級1号)があれば、重いほうの等級が1つ繰り上がって第8級が認定されます。
まぶたの欠損障害は、両眼のまぶたに著しい欠損を残すと第9級4号、1眼のまぶたに著しい欠損を残すと第11級3号、両眼のまぶたの一部に欠損を残すか「まつげはげ」を残すと第13級4号、1眼のまぶたの一部に欠損を残すか「まぶたはげ」を残すと第14級1号となります。
ここで「まぶたに著しい欠損を残す」とは、まぶたを閉じたときに角膜を完全に覆うことができない状態のことをいいます。また、「まぶたの一部に欠損を残す」とは、まぶたを閉じたときに角膜を完全に覆うことはできるものの、しろめが露出している状態のことをいいます。
そして、「まつげはげを残す」とは、まつげの生えている周縁の2分の1以上に渡ってまつげが生えないことをいいます。まぶたの運動障害は、両眼のまぶたに著しい運動障害を残すと第11級2号、1眼のまぶたに著しい運動障害を残すと第12級2号となります。
ここで「まぶたに著しい運動障害を残す」とは、①まぶたを開いたときに瞳孔を完全に覆うもの、②まぶたを閉じたときに角膜を完全に覆うことができないもののうちいずれかをいいます。
なお、系列の異なる2以上の障害があるとき、例えば、1眼のまぶたに著しい欠損障害(第11級3号)、他眼のまぶたに著しい運動障害(第12級2号)があれば、重いほうの等級が1つ繰り上がって第10級が認定されます。
耳の後遺障害(聴力や耳鳴り)
耳の障害には、聴力障害と耳介の欠損があります。
聴覚障害
聴力障害は、更に両耳と1耳に分けられます。
両耳の聴覚障害
両耳の聴力障害は、両耳の聴力を全て失うと第4級3号、両耳の聴力が耳に接しなければ大声を理解することができない程度になると第6級3号、1耳の聴力を全て失い他耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話し声を理解することができない程度になると第6級4号、両耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話し声を理解することができない程度になると第7級2号、1耳の聴力を全て失い他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話し声を理解することができない程度になると第7級3号、両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話し声を理解することができない程度になると第9級7号、1耳の聴力が耳に接しなければ大声を理解することができない程度になり他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話し声を理解することが困難になると第9級8号、両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話し声を理解することが困難になると第10級5号、両耳の聴力が1m以上の距離では小声を理解することができない程度になると第11級5号となります。
1耳の聴覚障害
1耳の聴力障害は、1耳の聴力を全て失うと第9級9号、1耳の聴力が耳に接しなければ大声を理解することができない程度になると第10級6号、1耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話し声を理解することができない程度になると第11級5号、1耳の聴力が1m以上の距離では小声を理解することができない程度になると第14級3号となります。
なお、聴力は、①平均純音聴力レベル、②最高明瞭度という2種類の数値で判断されます。
聴力の検査は、日を変えて3回行います。また、検査日と検査日の間は7日程度あけるものとされています。障害等級の認定は、2回目と3回目の測定値の平均純音聴力レベルの平均値で行い、2回目と3回目の測定値の平均純音聴力レベルに10dB以上の差があるときは更に聴力検査を重ねて行います。耳介の欠損は、1耳の耳介の大部分を欠損すると第12級4号となります。
ここで「耳介の大部分の欠損」とは、耳介の軟骨部の2分の1以上を欠損したことをいいます。耳介の大部分の欠損は、欠損障害(第12級4号)に該当すると同時に外貌の醜状損害(第7級12号)にも該当するため、より重い第7級12号が認定されます。また、耳介の欠損が2分の1未満にとどまるときは、耳介の欠損障害には該当しませんが、外貌の醜状損害に該当するものとして第12級14号が認定されます。
耳漏(「じろう」と読みます。鼓膜に穴が開き、そこから液が垂れてくる状態のことです)は、まずは手術によって治癒をめざします。手術後に後に聴力障害が残れば上記の基準で等級認定がなされますが、等級認定に該当しない程度の聴力障害であったとしても、常時耳漏があれば第12級、単なる耳漏であれば第14級が認定されます。
また、外耳道の高度の狭さくが生じたものの耳漏を伴わないときは第14級が認定されます。
耳鳴(「じめい」と読みます。みみなりのことです)は、難聴に伴う著しい耳鳴があれば第12級、難聴に伴う常時耳鳴があれば第14級が認定されます。ここで「著しい耳鳴」とは、耳鳴検査によって耳鳴の存在が医学的に認められるものをいいます。
ただし、耳鳴の常時存在が医学的には認められるものの、昼間は外部の音によって耳鳴を自覚せず、夜間のみ耳鳴を自覚するときは「常時耳鳴」となり、第14級が認定されます。
内耳の欠損による平衡機能障害は、神経系統の障害の認定基準に基づいて等級認定されますが、同時に聴力障害も発生しているときは、神経系統障害と聴力障害をそれぞれ認定し、両者を併合します(重いほうの等級を上げます)。
鼻の後遺障害(嗅覚異常、欠損など)
鼻の障害には、1種類しかありません。すなわち、鼻を欠損してその機能に著しい障害を残すと第9級の5となります。ここで「鼻の欠損」とは、鼻軟骨部の全部または大部分の欠損のことをいいます。鼻軟骨部の大部分の欠損は、欠損障害(第9級5級)に該当すると同時に外貌の醜状損害(第7級12号)にも該当するため、より重い第7級12号が認定されます。
また、鼻軟骨部の欠損が大部分に至らないときは、鼻の欠損障害には該当しませんが、外貌の醜状損害に該当するものとして第12級14号が認定されます。
また、「機能に著しい障害を残す」とは、鼻呼吸困難または嗅覚脱失をいいます。なお、鼻の欠損を伴わない単なる機能障害については、鼻呼吸困難または嗅覚脱失があれば第12級13号が認定され、嗅覚の減退にとどまるときは第14級9号が認定されます。
口の後遺障害(咀嚼や言語などの機能障害)
口の後遺障害は、そしゃく及び言語の機能障害と歯牙の障害に分けられています。
そしゃく及び言語の機能障害
そしゃく及び言語の機能障害は、そしゃく及び言語の機能の双方を全廃すると第1級2号、そしゃくまたは言語の機能の片方を全廃すると第3級2号、そしゃく及び言語の機能の双方に著しい障害を残すと第4級2号、そしゃくまたは言語の機能の片方に著しい障害を残すと第6級2号、そしゃく及び言語の機能の双方に障害を残すと第9級6号、そしゃくまたは言語の機能の片方に障害を残すと第10級3号となります。
ここで「そしゃく機能を全廃する」とは、流動食だけしか摂取できないことをいいます。「そしゃく機能に著しい障害を残す」とは、粥(かゆ)食またはこれに準じる程度の飲食物だけしか摂取できないことをいいます。
「そしゃく機能に障害を残す」とは、①固形食(たくあん、らっきょう、ビーナッツなど)の中にそしゃくできないものがあるとき、②そしゃくが十分にできず、そしゃくが十分にできないことの原因(不正咬合、そしゃく関与筋群の異常、顎関節の障害、開口障害、捕てつができない歯牙損傷など)が医学的に確認できるときのいずれかをいいます。
また、「言語の機能を全廃する」とは、4つの語音(口唇音、歯舌音、口蓋音、喉頭音)のうち3種類以上の発音が不能なときをいいます。口唇音はマ行、パ行、ワ行、フ、歯舌音はナ行、タ行、ダ行、ラ行、サ行、シュ、シ、ザ行、ジュ、口蓋音はカ行、ガ行、ヤ行、ヒ、ニュ、ギュ、ン、喉頭音はハ行のことです。
「言語の機能に著しい障害を残す」とは、①4つの語音のうち2種類の発音が不能なとき、②綴音機能に障害があり、言語のみを用いた意思疎通ができないときのいずれかをいいます。「言語の機能に障害を残す」とは、4種類の語音のうち1種類の発音が不能なときをいいます。
これらの組み合わせにないそしゃく機能障害と言語機能障害については、次のように判断されます。すなわち、そしゃく機能の著しい障害(第6級2号)と言語機能の障害(第10級3号)が併存するときは、重いほうを1つ上げて第5級、そしゃく機能を全廃し(第3級2号)、言語機能の著しい障害(第6級2号)が併存するときは、重いほうを1つ上げて第2級と認定されます。
嚥下障害があるときは、そしゃく機能障害の等級を準用します。味覚障害があるときは、味覚脱失(甘味、塩味、酸味、苦味の全てが認知できないとき)であれば第12級が認定され、味覚減退(上記の基本4味質のうち1味質以上が認知できないとき)であれば第14級が認定されます。
声帯麻痺による著しいかすれ声があれば、第12級が認定されます。開口障害等を原因としてそしゃくに相当時間を要するときは、第12級が認定されます。ここで「開口障害等を原因として」とは、開口障害、不正咬合、そしゃく関与筋群の脆弱化等が原因となり、そしゃくに相当時間を要することが医学的に確認できるときをいいます。
また、「そしゃくに相当時間を要する」とは、日常の食事で一応のそしゃくはできるものの、食べ物によってはそしゃくに相当時間を要することがある状態をいいます。
歯牙の障害
歯牙の障害は、歯科補てつを加えた歯の本数が、14歯以上だと第10級4号、10歯以上だと第11級4号、7歯以上だと第12級3号、5歯以上だと第13級5号、3歯以上だと第14級2号となります。
ここで「歯科補てつ」とは、現実に喪失または著しく欠損した歯牙に対する補てつをいいます。
弁護士のサポートは力になる
目・耳・鼻・口の後遺障害については複雑な点も多いです。適切な内容の後遺障害診断書を入手した上で後遺障害の等級認定をしなければなりませんので、弁護士のサポートは力になります。
当事務所は、目・耳・鼻・口の後遺障害が関係する事件を扱った経験も豊富です。お気軽にご相談下さい。