定年退職者や高齢者は逸失利益が認められるのか

代表弁護士 津田 岳宏 (つだ たかひろ)

交通事故に遭い、定年退職者や高齢者が後遺障害を負い又は死亡した場合、様々な損害が発生します。

では、定年退職者や高齢者は逸失利益が認められるのでしょうか。定年退職者や高齢者が、就労している場合、家事労働に従事している場合、就労の蓋然性が認められる場合、年金受給者が死亡した場合に、後遺障害逸失利益(ただし、年金を除きます)や死亡逸失利益が認められます。

後遺障害逸失利益は、基礎収入に労働能力の喪失割合を乗じ、これに労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて算定されます。
また、死亡逸失利益は、基礎収入から被害者本人の生活費として一定割合を控除し、これに就労可能年数(年金逸失利益については平均余命までの期間)に応じたライプニッツ係数を乗じて算定されます。

以下においては、後遺障害逸失利益や死亡逸失利益に共通する「定年退職者や高齢者の基礎収入」を示した上、これらに関連する労働能力喪失率、労働能力喪失期間、中間利息控除、就労可能期間、生活費控除などを概観しながら、定年退職者や高齢者は逸失利益が認められるのかについて、説明することとします。

定年退職者や高齢者の基礎収入

就労している場合

原則として、事故前の実収入額を基礎とします。

家事労働に従事している場合

女性労働者の全年齢平均賃金を基礎とします。

現在無職でも、就労の蓋然性が認められる場合

男女別の年齢別平均賃金を基礎とします。
就労の蓋然性は、就職予定を裏付ける内定通知書や雇用契約関連の書面などが、立証資料になります。

現在無職で、就労の蓋然性がない場合

逸失利益は認められません。

年金を受給している場合

年金受給者が後遺障害を負った場合

年金受給者は、事故により後遺障害を負っても年金支給額は減額されませんので、年金の逸失利益性は認められません。

年金受給者が死亡した場合

年金受給者が事故により死亡した場合、将来受けるべき年金が損害として認められるかについては、裁判例においては、遺族年金や障害年金(加給分)等ごく一部の逸失利益性は否定されていますが、大半の年金(例えば、老齢・退職年金、障害年金[基本年金分]等)については逸失利益性が認められています。

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、被害者が交通事故による後遺障害がなければ得られたであろう利益です。症状固定時以降につき認められます。

後遺障害逸失利益は、「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」で算定されます。

労働能力喪失率

労働能力喪失率とは、後遺障害により労働能力の喪失・減退を来した割合です。

後遺障害によってどの程度労働能力を喪失したかについては、一般的に、当該後遺障害が自賠法施行令別表第1及び第2のいずれに該当するかを判断し、その後遺障害等級につき労災補償のための通達である労働省労働基準局通牒(昭32.7.2基発551号)に基づいて労働能力喪失率を算定しています。後遺障害は1級から14級に整理され、各等級に見合った労働能力喪失率が基準化されています。

上記通達は労働能力喪失率算定に当たって有力な資料ではありますが、障害の部位・程度、被害者の性別・年齢・職業、事故前後の稼働状況、減収の程度等を総合的に判断して決められることになります。

労働能力喪失期間

労働能力喪失期間とは、症状固定時の被害者の年齢から67歳までの期間です。

なお、労働能力喪失期間の終期は、被害者の年齢・職業・健康状態その他諸般の事情を考慮して認定すべきですから、67歳とは異なる認定となることもあります。高齢者については、67歳までの年数と平均余命の2分の1のいずれか長い方とすることを原則としながら、被害者の性別・年齢・職業・健康状態等を総合的に判断して決められています。

もっとも、むち打ち症の場合、症状の軽減ないし馴化による労働能力の回復が見込まれるとして、後遺障害12級の場合には10年程度、14級の場合には5年程度に労働能力喪失期間を限定する裁判例が多いとされます。

中間利息控除

中間利息の控除方法については、現在全国の裁判所でほぼライプニッツ方式が採用されています。中間利息控除の基準時については、最高裁判例はまだなく、症状固定時を基準とする裁判例が多数ですが、事故時を基準とする裁判例も少なくありません。中間利息を控除することによって、将来の逸失利益を現在価格に換算します。

中間利息の控除割合は、令和2年4月1日施行の民法改正により、その損害賠償請求権が生じた時点における法定利率によることが明文化され(民法417条の2)、同規定は不法行為による損害賠償の場合にも準用されています(民法722条1項)。

そして、民事法定利率が年5%の固定制から変動制に変更され、改正民法施行後の事故については、改正民法施行当初は年3%(民法404条2項。ただし、同条3項により利率は3年ごとに見直されます)が適用されます。

死亡逸失利益

死亡逸失利益とは、被害者が交通事故により死亡しなければ得られたであろう利益です。死亡逸失利益は、「基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数(年金逸失利益については平均余命までの期間)に対応するライプニッツ係数」で算定されます。

基礎収入、就労可能期間、中間利息控除

基礎収入や就労可能期間(ただし、終身年金の場合は平均余命までてす)、中間利息控除については、後遺障害逸失利益の場合と同様(ただし、年金については、死亡逸失利益の場合のみです)に考えることができます。

生活費控除

死亡逸失利益については生活費控除がなされます。これは、生きていれば必要であった生活費の支払を死亡により免れることになるため、その分を損益相殺として控除するものです。

実務では、被害者の家族構成・属性により一定割合を用いることとしています。生活費控除率は、実務の算定基準の一つである「赤い本」では、一家の支柱(被害者の世帯が主としてその被害者の収入によって生計を維持している場合)で被扶養者1人の場合40%・2人以上の場合30%、女性30%、男性50%としています。

なお、年金受給者については、生活費控除率を通常より高くすることが多く、生活控除率を50~60%とした裁判例が比較的多いとされます。

まとめ

交通事故に遭い、定年退職者や高齢者が後遺障害を負い又は死亡した場合、後遺障害逸失利益又は死亡逸失利益の損害が発生します。後遺障害逸失利益や死亡逸失利益については、その算定の根拠となる基礎収入や後遺障害等級(後遺障害逸失利益の場合)が、それぞれ証拠に基づき立証されなければなりません。

これらの逸失利益の請求をお考えの方は、是非当事務所にご相談ください。

代表弁護士 津田岳宏(つだたかひろ)/昭和54年生/京都女子大学付属小学校卒業/東大寺学園中・高等学校卒業/京都大学経済学部卒業/平成19年9月弁護士登録/平成26年6月京都グリーン法律事務所を設立

賠償金が増額出来なければ報酬は一切頂きません

着手金無料/完全成功報酬/時間外・土日祝対応

京都・滋賀/全域対応

交通事故の無料相談はこちら

0120-543-079
受付時間平日 9:00 - 22:00 / 土日祝夜間対応可