損益相殺では控除の対象とならない給付もあるのか

交通事故を巡って、損害賠償額が争いになった場合、過失相殺とともに、損益相殺が問題になったりします。

では、損益相殺では控除の対象とならない給付もあるのでしょうか。後述するように、損益相殺では控除の対象とならない多くの給付があるのです。

以下においては、損益相殺とは、控除の対象となる給付、控除の対象とならない給付、控除の対象となるか否か問題となる給付、損益相殺と過失相殺との先後関係などを概観しながら、主な給付を検討する中で、損益相殺では控除の対象とならない給付もあるのかについて、説明することとします。

損益相殺とは

損益相殺とは、事故により損害を受けた被害者が、同一の原因により利益を受けている場合に、その利益を損害から控除する扱いのことです。

損益相殺については、明文の規定はありませんが、解釈上確立した法理です。最大判平5.3.24民集47・4・3039は、「被害者が不法行為によって損害を被ると同時に、同一の原因によって利益を受ける場合には、損害と利益との間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要があ」るとしています。

損益相殺に関しては、控除の対象となる給付といえるか、過失相殺がある場合、損益相殺と過失相殺との先後関係が、大きな問題といえましょう。

控除の対象となる給付

弁済

加害者からの弁済が控除されます。

自賠責保険金(自賠法16条)

控除の対象となる費目は、人身損害に限られ、物的損害は塡補しません。また、労災保険とは異なって損害費目による拘束はなく、人身損害額全体から支払われた自賠責保険金を控除します。

政府の自動車損害賠償保障事業てん補金(自賠法72条)

損害額から支払われた自動車損害賠償保障事業てん補金が控除されます。

任意保険金

加害者が加入していた任意保険から支払われた保険金が控除されます。

各種社会保険給付

①労災保険法による給付

労災保険法による、療養(補償)給付、休業(補償)給付、障害(補償)給付、遺族(補償)給付、葬祭料(葬祭給付)、傷病(補償)年金、介護(補償)給付は、代位規定があり、控除の対象となります。

②国民年金、厚生年金等

国民年金法、厚生年金法等の公的年金制度に基づく給付(障害基礎年金、障害厚生年金、遺族基礎年金、遺族厚生年金等)は、代位規定があり、損害額から控除されます。

③健康保険法等における療養の給付

健康保険法及び国民健康保険法における療養の給付は、代位規定があり、損害額から控除されます。

④介護保険金

介護保険制度が適用される高齢者が被害者の場合、介護保険給付がされることがありますが、この給付は、代位規定があり、損害額から控除されます。

各種保険金

①人身傷害保険金、無保険車傷害保険金、車両保険金

被害者側加入の保険からこれらの支払を受けた場合は、保険代位により、損害賠償請求権が保険会社に移転するため、損害額から控除されます。

②所得補償保険金

最判平元.1.19判タ690・116は、旧商法622条1項の代位規定を理由に、控除の対象となるとしています。

控除の対象とならない給付

香典

被害者の遺族が会葬者等から受領した香典は、損害を塡補する性質を有しないため、控除の対象となりません。

労災保険金のうち特別支給金

休業特別支給金、傷病特別支給金、傷病特別年金、障害特別支給金、障害特別年金、障害特別一時金、遺族特別支給金、遺族特別年金、遺族特別一時金の特別支給金は、代位規定がなく、労災保険から給付を受けていても、これらは損害の塡補を目的とするものでもないため、控除の対象となりません。

各種保険金

①生命保険金、生命保険の傷害・入院給付金

これらは、被害者が負担した保険料の対価であり、損害の塡補を目的としておらず、控除の対象となりません。

②搭乗者傷害保険金、自損事故保険金等

保険会社から支払われるこれらの保険金は、保険料の対価の性質があること、定額払であること、約款等に代位規定がないことなどを理由に、控除の対象とならないとされています。

③独立行政法人自動車事故対策機構法による介護料

独立行政法人自動車事故対策機構法13条4号に基づき同機構から支給される介護料は、被害者に対する支援という社会福祉的な施策の一つであり、控除の対象となりません。

④雇用保険法による給付

雇用保険法に基づく基本手当等の失業等給付は、損害塡補の性質のものではなく、代位規定もないため、控除の対象となりません。

⑤障害者福祉制度、福利厚生制度等による給付

身体障害者福祉法に基づく給付、使用者からの特別弔慰金等は、控除の対象となりません。

控除の対象となるか否か問題となる給付

見舞金

加害者が被害者に交付した見舞金は、謝罪の趣旨で交付されるものであり、損害の塡補と解されないことが多く、控除の対象となりませんが、多額のものは損害の塡補と解されますので、控除の対象となります。

租税

最判昭45.7.24民集24・7・1177は、「被害者の得べかりし利益を喪失したことによる損害額を算定するに当たっては、得べかりし利益に課せられるべき所得税その他の租税額を控除すべきではない」としています。

養育費

最判昭53.10.20民集32・7・1500は、「幼児の財産上の損害賠償額の算定に当たりその将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきものではない」と解しています。

生活保護法による扶助費

生活保護法による扶助費は、控除の対象とならないとするのが判例(最判昭46.6.29民集25・4・650)ですが、平成25年の生活保護法の改正により、第三者行為を原因とする負傷に対する医療扶助及び介護扶助の給付につき、代位規定(生活保護法76条の2)が設けられたことにより、今後これらについては、控除の対象となるものと解されます。

損益相殺と過失相殺との先後関係

過失相殺がある場合、損益相殺と過失相殺についてどちらを先にするかという問題があります。

自賠責保険金・政府の自動車損害賠償保障事業てん補金・任意保険金

これらの給付は、加害者による支払と同視できますので、過失相殺をした後に控除することにつき争いはありません。

労災保険金

労災保険金は、過失相殺後控除で処理されています。

健康保険法等による給付

健康保険法、国民健康保険法による給付は、実務上、過失相殺前控除で処理されています。

まとめ

交通事故が原因で、既に保険金などを受け取っていた場合、その部分を損害賠償額から控除するかが問題になることがあります。損益相殺の対象となるか否かの判断は複雑で、裁判例や実務運用を確認して対応する必要があります。
損害賠償の請求を巡り、損益相殺のことでお悩みの方は、是非当事務所にご相談ください。

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