死亡事故に伴う葬儀関係費を請求できるのか

代表弁護士 津田 岳宏 (つだ たかひろ)

交通事故で被害者が死亡した場合、損害のひとつとして葬儀関係費があります。被害者の遺族ら関係者は、加害者側に対し、損害賠償請求の一環として葬儀関係費について請求できます。

葬儀関係費については、遅かれ早かれ人は死ぬものであり、いずれは支出しなければならないものですから、損害といえるかが争われた判例がありましたが、その時に葬儀をしなければならなかったのは、当該交通事故によるものであって、人の死亡事故によって生じた必要的出費として、加害者側の賠償すべき損害と解されています(最判昭43.10.3判時540・38)。

以下においては、葬儀関係費の範囲、葬儀関係費の基準額などを概観しながら説明していきます。

なお、自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した事故については、新基準が適用されます(下記の支払基準は新基準によっています)。

葬儀関係費の範囲

葬儀関係費としては、葬儀費用のほか、墓碑建設費、仏壇購入費等があります(最判昭44.2.28民集23・2・525)。、

葬儀関係費は、被害者の年齢、境遇、家族構成、社会的地位、職業、被害者や遺族の宗教、社会の習俗等によって葬儀等の規模や内容が異なり、支出される金額も様々です。

交通事故により予期せぬ時期に急遽葬儀をしなければならなかった場合、「その支出が社会通念上相当と認められる限度において、通常生ずべき損害として、その賠償を加害者に対して請求することができると解するのが相当である」(前掲最判昭44.2.28)とされています。

ただ、実務上は、葬儀関係費の範囲について、必ずしも統一的な運用がなされているわけではなく、葬儀関係費とは別に、墓地・墓石の購入費を認めた事例(浦和地判平9.8.12交民30・4・1146)、墓石・墓誌の彫刻代、仏具代を認めた事例(横浜地判平26.4.25自保ジ1926・167)、墓代及び埋葬料を認めた事例(横浜地判平26.11.6交民47・6・1385)もあり、また、葬儀費用とは別個の支出(別途積極損害)として、遺体配送料を認めた事例(京都地判平14.7.1自保ジ1464・14)、遺体の空路搬送費用を認めた事例(東京地判平22.12.15自保ジ1844・114)、遺体処置費用等遺体搬送費一式を認めた事例(横浜地判平27.9.30交民48・5・1223)もあります。

葬儀関係費の基準額

葬儀関係費の基準額は、実務上、一定の範囲での定額化が図られており、150万円(赤い本)、130~170万円(青本)、100万円(自賠責基準[費目:葬儀費])となっています。 

どのような葬儀をするかは、被害者の希望、あるいは遺族ら関係者の意向によることになりますが、基準額以上の規模の葬儀費用を支出したとしても、特別な事情がない限り、基準額の限度で認められることになります。

上記基準額の葬儀費用を少なくとも支出したことの立証を要するかについては、見解が分かれていますが、赤い本は「基準額を下回る場合は、実際に支出した額」としており、青本も同様です。

実務上、上記基準額までは原則として特段の立証を要しないとし、基準額以上の支出があった場合に、領収書、振込票等による立証が必要であるとする扱いもあります。被害者やその家族の社会的地位、複数回の葬儀の必要等の事情によっては、基準額を超える葬儀費用が認められることもあります。

例えば、被害者の身上や事故態様等に照らし、葬送等に手厚く対応しようとしたことは無理からぬとして、基準額を超える250万円を認めた事例(東京地判平20.8.26交民41・4・1015[34歳男性、大手監査法人勤務につき、妻が葬儀関係費として254万円余、両親が葬儀関係費として48万円余、墓地、墓石代等400万円余を支払った事案])、遺体の運搬費用が高額に及ぶこと等から単身赴任先で葬儀を行い、改めて地元でも葬儀を行ったこと等から、基準額を超える200万円を認めた事例(大阪地判平28.10.26自保ジ1989・174[50歳男性会社員の事案])がこれに当たります。

これらの場合、実際の支出額と合わせ、基準額を超える費用を要する具体的な事情を立証することになります。

香典については、損害を塡補する性質を有しないと考えられますから、損害額から控除しません(前掲最判昭43.10.3参照)。香典返しは、他からもらったものに対するお返しであって、被害者側の損害になっていないものとして、また、弔問客接待費(精進落としの食事や葬儀当日の会葬お礼品等)も、香典返しと同様に香典に対するお返しの意味を持つものとして、損害とはなりません。僧侶に対するお布施、戒名料等、一般的に領収書の発行されない費目については、支払額、支払日、支払先等を正確に記録しておくほか、口座からの対応する出金等による立証を検討する必要があります。

まとめ

交通事故で被害者が死亡した場合、残された遺族は葬儀等の準備をしなければなりません。そして、葬儀等に伴う諸々の出費を余儀なくされます。

遺族ら関係者は、原則として基準額(赤い本では150万円)の葬儀関係費を加害者側に請求できます。基準額以上の葬儀関係費を請求する場合には、実際の支出額と合わせ、基準額を超える費用を要する具体的な事情を立証する必要があります。

代表弁護士 津田岳宏(つだたかひろ)/昭和54年生/京都女子大学付属小学校卒業/東大寺学園中・高等学校卒業/京都大学経済学部卒業/平成19年9月弁護士登録/平成26年6月京都グリーン法律事務所を設立

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