交通事故の過失割合はどのように決定されるのか

代表弁護士 津田 岳宏 (つだ たかひろ)

交通事故で示談がまとまらない原因の一つに、過失割合があります。

被害者は、保険会社の提示する過失割合に納得できず、示談が長引くことがあります。

では、交通事故の過失割合はどのように決められるのでしょうか。

過失割合は、当事者双方の合意によって、あるいは、訴訟になれば裁判所によって、決められることになります。

そして、基本的には、過去の裁判例が参考にされるわけです。

以下においては、過失割合はどのように決められるのかについて、基本となる過失割合と過失割合の修正要素などに触れながら、説明することとします。

なお、下記の基本となる過失割合と過失割合の修正要素の括弧内の数字は、パーセントを省略して数字のみの表記としています。

過失割合はどのように決められるのか

交通事故では、保険会社が考える過失割合に基づき過失相殺を行った上で、示談金の提示をしてくることが多いと思われます。

そのため、一般の方の中には、交通事故の過失割合は保険会社が決めていると思われている方もいます。

しかし、交通事故の損害賠償について示談が行われるときは、過失割合についても当事者同士が話合いをして、その割合を当事者双方の合意で決めることになるのです。

また、過失割合について当事者双方の合意が得られず、訴訟になった場合には、当事者双方の主張、立証に基づいて、裁判所が過失割合を決めることになります(民法722条2項参照)。

このように、過失割合は、当事者双方の合意によって、あるいは、訴訟になれば裁判所によって、決められるのです。

過失割合的に被害者でも損害賠償金を支払うケースもある

四輪車対歩行者の事故で、四輪車に1000万円の損害が発生したケースで考えてみます(冷凍車の冷凍機能が壊れて荷物が溶けてしまった場合などでは損害額が極めて多額になる可能性があります)。
歩行者が青点滅信号で横断歩道の横断を開始し、赤信号で進入した四輪車と横断歩道上で衝突したとき、歩行者の過失割合(正確には過失相殺率)は10%です。
したがって、歩行者に治療費その他で100万円の損害が発生したとき、歩行者は、四輪車に対し、90万円の損害賠償金を請求することができます。

これに対し、四輪車は、歩行者に対し、上記書籍の過失相殺率の記載を根拠として損害額1000万円の10%である100万円を請求することはできません。なぜなら、この10%は過失割合ではなく、歩行者が歩行者自身の損害賠償請求をする際の減額率(過失相殺率)を意味するものだからです。
とはいえ、現実の裁判実務では、過失相殺率は過失割合として事実上機能しています。裁判官が和解を勧めたり判決を書いたりする際に何らかの拠り所がほしいと感じるときに、裁判実務において絶大な権威性をもつ上記書籍の記載に目が向いてしまうからかもしれません。

そのため、実務的には、双方の損害額を合算し(上記のケースでは1100万円)、このうち四輪車が90%(990万円)を負担し、歩行者が10%(110万円)を負担するという和解がなされることがほとんどであり、判決でも四輪車の損害のうち10%を歩行者に負担させるように命じられることがほとんどです。そうすると、上記ケースでは、歩行者の損害は100万円であるのに対し、歩行者の負担額は110万円ですから、歩行者の過失が10%にすぎないのに歩行者が四輪車に10万円を支払う結果になります。

ドライブレコーダーが証拠で過失割合が変わることもある

四輪車にドライブレコーダーが設置され、事故状況が記録されているケースでは、その写真や映像が客観的な証拠となります。

そのため、写真や映像に記録されている事故状況に沿った形で、被害者の過失割合(正確には過失相殺率)が判断されることになります。
民事裁判は客観的な真実を追求する場ではなく(裁判官は神様ではないため、客観的な真実が何かは分からないからです)、より有利な証拠を提出することに成功した側の主張が真実と認められてしまいます。
そして、自動車損害賠償保障法3条は、被害者保護のため、自動車の運転手に対して被害者に過失があることの立証責任を課しています。

そのため、被害者の過失割合(正確には過失相殺率)について被害者と加害者の言い分が異なり、どちらの側にも決定的な証拠がなかったときは、裁判所は、被害者の言い分に沿った形で事実認定をすることになります。したがって、事故状況が記録されているドライブレコーダーの写真や映像は、被害者の過失割合(正確には過失相殺率)を立証し、自動車の運転手の賠償責任を減らすための極めて重要な手段といえます。

交通事故直後の現場写真は重要な証拠となる

交通事故の事故状況が争いになったとき、被害者と加害者の供述は決定的な証拠とはなり得ません。なぜなら、どちらも自分に有利な内容を供述しようとする類型的な危険性がありますし、人間の記憶は極めてあいまいであり、悪気がなくても自分に有利なように思いこみ、間違ったことを真実として記憶してしまっているケースも珍しくないからです。

これに対し、交通事故の直後に現場の状況を撮影した写真は、間違った記憶によって汚染される可能性がない客観証拠として信用性が高く、後日、極めて重要な証拠となる可能性があります。
したがって、交通事故が発生した場合は、自分と相手の身の安全を確保した上で、余裕があれば、様々な位置や角度から、できる限り多くの写真を撮影しておくべきです。

過失割合の基準

過失割合については、全く基準がないというわけではありません。

裁判所は、基本的に、過去の裁判例において、実際の事故の態様と類似した態様の事案では、どのような判断がなされたのかということを参考にして、過失割合を決めることが多いのです。

また、当事者同士が合意で過失割合を決める際も、もし裁判になれば、どのような判断がなされるかということを予想しながら決めることになりますので、基本的には、過去の裁判例を参考にすることになります。

そこで、実務では、事故の態様ごとに、基本となる過失割合やその過失割合を修正すべき要素が掲載された、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂5版〕」(別冊判例タイムズ38号。

以下「別冊判タ」といいます)という書籍を参考にして、過失割合が判断されるのが一般的です。

さらに、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編による過失割合認定基準(「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」。

以下「赤い本」といいます)が毎年発表されています。

赤い本の基準は、従来発表された各基準、裁判例等を検討の上発表されているものです。

そこで、別冊判タや赤い本を参考に、基本となる過失割合と過失割合の修正要素を検討してみることにします。

基本となる過失割合と過失割合の修正要素

下記においては、一般的な事故の態様の場合、基本となる過失割合、過失割合の修正要素(加算要素、減算要素)がどのようなパーセントになるのかを示しています。

なお、車両の著しい過失とは、脇見運転、酒気帯び運転、15㎞以上30㎞未満の速度違反、ハンドル・ブレーキの不適切操作などをいい、車両の重過失とは、居眠り運転、酒酔い運転、無免許運転、30㎞以上の速度違反などをいいます。

歩行者と車両の事故

基本となる過失割合

信号機あり 横断歩道上 青信号歩行者(0)・赤信号車両(100)、黄信号歩行者(10)・赤信号車両(90)、赤信号歩行者(20)・赤信号車両(80)、赤信号歩行者(50)・黄信号車両(50)、赤信号歩行者(70)・青信号車両(30)
信号機なし 横断歩道上 歩行者(0)・車両(100)

過失割合の修正要素

歩行者
加算要素 夜間(5)、横断禁止場所(5)、幹線道路(横横断道上〔5〕、横断歩道外〔10〕)、直前・直後横断(5~10)、佇立(5~10)、後退(5~10)、ふらふら歩き(5~10)、歩車道の区別あり(5~10)、バックブザー後退警告(10)
減算要素 住宅・商店街(10)、児童(6歳以上13歳未満)・高齢者(65歳以上)・幼児(6歳未満)・身体障害者等(10)、集団横断・通行(10)、車両の著しい過失(10)、車両の重過失(20)、車両の合図なし(10)、歩車道の区別なし(5~10)

車両同士の事故

交差点における直進車同士

基本となる過失割合
信号機あり 青信号車(0)・赤信号車(100)、赤信号車(50)・赤信号車(50)、黄信号車(20)・赤信号車(80)
信号機なし ほぼ幅員同じ 左方車(20)・右方車(80)
一方が明らかに広い道路 広路車(30)・狭路車(70)
一方に一時停止の規制 規制なし車(20)・規制あり車(80)
一方が優先道路 優先車(10)・劣後車(90)
過失割合の修正要素
加算要素
信号機あり 青信号車⇒相手車の明らかな先入(10)、両車⇒著しい過失(5~10)、重過失(10~20)
信号機なし ほぼ幅員が同じ 右方車⇒見通しのきく交差点(10)、両車⇒大型車(5)、著しい過失(10)、重過失(20)
一方が明らかに広い道路 狭路車⇒見通しのきく交差点(10)、広路車⇒狭路車の明らかな先入(10)、両車⇒著しい過失(10)、重過失(20)
一方に一時停止の規制 両車⇒著しい過失(10~15)、重過失(15~25)
一方が優先道路 優先車⇒劣後車の明らかな先入(10)、両車⇒著しい過失(10~15)、重過失(15~25)

交差点における直進車と右折車

基本となる過失割合
信号機あり 青信号直進車(20)・青信号右折車(80)、赤信号直進車(50)・赤信号右折車(50)、黄信号直進車(40)・黄信号右折車(60)、赤信号直進車(100)・青矢印右折車(0)
信号機なし ほぼ幅員同じ 直進車(30)・右折車(70)
直進車が明らかに広い道路 直進車(20)・右折車(80)
右折車に一時停止の規制 直進車(15)・右折車(85)
直進車が優先道路 直進車(10)・右折車(90)
過失割合の修正要素
加算要素
信号機あり 右折車⇒徐行なし(10)、右折禁止違反(10)、直近右折(10)、合図なし右折(10)、直進車⇒15㎞以上の速度違反(10~20)、右折車の既右折(10)、両車⇒著しい過失(10)、重過失(10~20)
信号機なし ほぼ幅員同じ 右折車⇒徐行なし(10)、右折禁止違反(10)、直近右折(10)、合図なし(10)、直進車⇒15㎞以上の速度違反(10~20)、右折車の既右折(20)、両車⇒著しい過失(10~15)、重過失(10~15)
直進車が明らかに広い道路 右折車⇒徐行なし(10)、右折禁止違反(10)、広路直進車⇒減速せず(10)、15㎞以上の速度違反(10~20)、両車⇒著しい過失(10)、重過失(20)
右折車に一時停止の規制 規制あり右折車⇒徐行なし(10)、右折禁止違反(10)、規制なし直進車⇒減速せず(10)、15㎞以上の速度違反(10~20)、左方右折車の既右折(15)、右方右折車の明らかな先入(10)、右折車の一時停止後進入(10)、両車⇒著しい過失(10)、重過失(20)
直進車が優先道路 右折車⇒徐行なし(10)、右折禁止違反(10)、直進車⇒15㎞以上の速度違反(10~20)、左方右折車の既右折(15)、右方右折車の明らかな先入(10)、両車⇒著しい過失(10)、重過失(20)

まとめ

交通事故に遭った場合、その過失割合を巡って、保険会社との間で争いが生じやすいものです。

過失割合は、当事者双方の合意によって、あるいは、訴訟になれば裁判所によって、決められることになります。

そして、基本的には、過去の裁判例が参考にされるわけです。

弁護士のサポートがあれば、適正な過失割合のもと、被害者も納得できる内容で、保険会社との示談が可能になります。

交通事故に遭った場合には、交通事故に強い弁護士に依頼するようにしましょう。

代表弁護士 津田岳宏(つだたかひろ)/昭和54年生/京都女子大学付属小学校卒業/東大寺学園中・高等学校卒業/京都大学経済学部卒業/平成19年9月弁護士登録/平成26年6月京都グリーン法律事務所を設立

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